Osaka University of Tourism’s
Web magazine”passport”
「passport(パスポート)」は、観光や外国語、国際ニュースなどをテーマに、
大阪観光大学がお届けするWEBマガジンです。
記事を書いているのは大阪観光大学の現役の教授や学生たち。
大学の情報はもちろん、観光業界や外国語に興味のある方にも楽しんでいただける記事を定期的に公開していきます。
観光のまなざしの生成 - 福山市の大黒町商店街に出会って
先日、所用があって、女友達と連れ立って広島県福山市へ出かけたときのことである。山陽新幹線の福山駅の構内では鞆の浦の常夜灯の模型が置かれ、歓迎鯛網と記された大漁旗に、旅情がそそられて、わくわくした。
長く福山市に暮らす地元の人たちとの会合を済ませ、はてさて、折角来たのだからと、福山市内を散策して美味しいものでも食べて帰りたいと思った。そこで、どこか、お勧めはないかと尋ねると、「どこかって言われても、なにもない。外国から客人が来ても、鞆の浦や厳島神社まで足を延ばさないと見せるモノがない。食事は自宅で食べることがほとんどで、どこって言われても???」と返答に困る。しかしそれでも、しばらく考えて一軒の食堂を教えてくれた。無事に胃袋を満たし、ふと、レジ横の「閉店します」の張り紙に目がいった。その後、駅までぶらぶらと歩いていくと、突然、赤レンガを敷き詰めた、道の両脇にレトロな銀行や交番、イングリッシュパブや時計台を付けた眼科などの洋館が続く、大黒町商店街に迷い込んでしまった。
同行の女友達が、ふと、つぶやいた。
「あの(福山の)人たちは、普段、自分たちが当たり前に思っている商店街やから、気が付いてないんやね。こんなに不思議で、なんともユニークでイギリスだのドイツだのごちゃごちゃと面白い空間の商店街があるというのに。文化財を破壊しないでください、と垂れ幕にあるから、町でも話題になっているだろうに。さっき食べたお店も、普段は行ってないから、もうすぐ閉店なんてきっと知らないね。高い新幹線代を払って厳島神社まで行かなくても、地元にあるのに???」
社会学者のJ?アーリは、ミッシェル?フーコーが用いたまなざしを、歴史的社会的に文化として構造化された視線のまなざしと捉えて、旅行者のまなざしを分析する。アーリはまなざしが向けられる対象として、日常から離れた異なる景色、風景や町並みをあげる。私たちは「出かけて」、周囲に関心と好奇心をもって眺めるのだともいう。
それは、まさしく私たちが福山で偶然、出会った商店街であったのだ。福山の人たちにとっては、普段、あまりにも身近に存在していて、当たり前のようにあって、まなざしを向けないところだ。帰宅して興味が湧き調べてみると、この大黒町の商店街は、既に、旅行会社によって「福山城下町巡り~レトロモダンな大黒町でノスタルジックな旅を」と旅行商品として企画されていた。まさしく、アーリの言う観光対象の発見であり、観光対象へ向けた異邦人のまなざしの誕生だといえよう。
これだから、観光研究はおもしろい!
①福山駅構内の常夜灯と大漁旗
②保存運動が叫ばれている大黒町商店街
③イングリッシュパブの店先
写真はいずれも筆者撮影(2018年4月27日)