Tourism passport web magazine

学校法人 大阪観光大学

〒590-0493
大阪府泉南郡熊取町
大久保南5-3-1

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大阪観光大の学生や教員が運営する WEBマガジン「passport」

Osaka University of Tourism’s
Web magazine”passport”

「passport(パスポート)」は、観光や外国語、国際ニュースなどをテーマに、 大阪観光大学がお届けするWEBマガジンです。
記事を書いているのは大阪観光大学の現役の教授や学生たち。 大学の情報はもちろん、観光業界や外国語に興味のある方にも楽しんでいただける記事を定期的に公開していきます。

日本最古の祭りを考える

日本の各地には、いろいろな祭りが受け継がれています。大阪府内だけでも、日本三大祭の天神祭やだんじりなど全国に名前が知られているものから、地域の中でこじんまりと行われる小さな祭りまで、数えきれないくらいの祭りがあります。しかし、その数多い祭りの中から、日本で最古の祭りといったらどこになるのか、考えてみたことはあるでしょうか?
 実は今まで誰もそんな問いを発したことがありませんでした。なぜなら、ほとんどの祭りにはいつ始まったのかを示す明確な記録がないため、そのような問いに答えることが不可能だったからです。

そこで、ここでは一種の「頭の体操」と割り切って、あるルールを決めて日本最古の祭りを選び出すことにチャレンジしてみましょう。そのルールとは、まず文字で書かれた古い資料(史料)の中に昔の祭りの記録があることです。次にそのような資料が書かれた年代がはっきりしていることです。そして、多くの資料を年代順に並べて最も古い記録が見つかれば、それが記録の上では日本で一番古い祭りといえるのではないでしょうか。もちろん、文字の記録はないけれども、古い歴史がありそうな祭りは各地にたくさんあるのですが、ひとまず文字で書かれた記録に限定して考えていきましょう。

実はこのルールにそって昔の記録を探してみると、意外に簡単に日本最古の祭りを見つけ出すことができます。みなさんは『古事記』とか『日本書紀』といった書物の名前を聞いたことがありますか?
 いずれも8世紀はじめに書かれた、現在残っている中では最も古い歴史書です。これらを最初から読んでいくと、まず天地の始まりがあって、次にイザナギ?イザナミという夫婦の神が国土や神々を生み出していくという「国生み?神生み神話」があります。ところが、女神であるイザナミは火の神を生んだ時に大火傷をして亡くなってしまいました。イザナミが葬られた場所は諸説あるのですが、『日本書紀』では「紀伊国熊野之有馬村」という説をあげた上で、その土地の人びとは、花を供えたり歌舞を演じたりして女神の霊魂を祭っているとしています。この場所は、現在の三重県熊野市有馬町にある「花の窟」(はなのいわや)とされ、海に面して高さ45メートルもある巨大な岩がイザナミの墓と考えられています。このように特異な巨岩は磐座(いわくら)とよばれて、太古の昔から神の依り代、あるいは神そのものとして崇められてきました。そして、現在でも毎年2月2日と10月2日には、地域の人びとが総出でこの巨岩の頂上からしめ縄を掛け直すなど盛大な祭りが行われているのです(写真参照)。

2014年花の窟神社例大祭の様子(筆者撮影)

日本神話の系譜をたどれば、イザナギ?イザナミから初代の神武天皇まで七世代、さらに神武天皇から現代まで2,600年あまりという皇紀を信じれば、熊野花の窟の祭りは、ざっと3,000年の歴史を持っていることになります。さすがにそれは誇張のし過ぎですが、8世紀の段階で、当時の人びとに「これはかなり古い祭りだろう」と信じられていたことは確かでしょう。『日本書紀』の中で最初に出てくる祭りの話しである点からも、ひとまずこの祭りを記録の上で日本最古と認定してもいいのではないでしょうか。

日本最古の祭りということは、もしかすると世界最古の祭りかもしれないという期待も高まります。実は地域に住む普通の人びとによって執り行われ、守り続けられてきた古い歴史のある祭りは、世界を見渡しても日本以外にそう多くはないのです。いずれは先ほどチャレンジした方法で、世界中の祭りの記録を調べてみたいと思っていますが、みなさんも自分が住んでいる地域の祭りにはどんなものがあるか、どういう歴史をもっているのか、調べてみると面白いと思います。意外な発見があるかもしれませんよ。

参考文献:本多健一(2015)『京都の神社と祭り-千年都市における歴史と空間』 中公新書

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