Osaka University of Tourism’s
Web magazine”passport”
「passport(パスポート)」は、観光や外国語、国際ニュースなどをテーマに、
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大学の情報はもちろん、観光業界や外国語に興味のある方にも楽しんでいただける記事を定期的に公開していきます。
近世古文書探訪と解読の愉しさ
「古文書」とは如何なるものでしょう。一般論として述べるならば「古い文書?記録」であるということができると思います。具体的には「甲から乙と云う特定者に対して、甲の意思を表明するために文字を使用しておこなわれる意思表示の手段である。」と云うことが出来ます。特定者を対象として作成されたものではない編纂物並びに日記などは「古記録」と呼んでいます。古文書と古記録を合わせて「文献史料」とよびます。
ここでは近世古文書に限定して考えてみましょう。近世(江戸時代)の文字を解読するためには、古文書の書風形式を理解しておく必要があります。青蓮院流(御家流)と呼ばれている書風です。鎌倉時代後期に持明院統に属する伏見天皇の皇子尊円法親王が京都粟田口の青蓮院第17世門跡となり、平安時代に活躍した三蹟の一人である藤原行成の穏やかで品の良い和風書道(世尊寺流)に宋風書道の品格をとりいれて開いた流派を指しています。見た目の穏やかさ、形のとりやすさから室町時代に隆盛し、江戸時代には御家流とも呼ばれ、多くの人に親しまれることとなった書風です。朝廷、幕府、諸藩の公文書、制札などはこの書流が採用される事になりました。藩校や寺子屋などの教育機関で、青蓮院流の薫陶を受けた武家?庶民の子弟も数多存在していたと云われています。
古文書を読むことの難解さは、文体や用語が私たちの日々の生活からかけ離れた存在になりつつあることに起因していると思われます。日本語でありながら日常用語との落差の大きいことから食わず嫌い、取っ付き難いものとして、研究や解読の扉を敲こうとする学生が逓減しつつある現実が垣間見られます。古文書は歴史研究の重要な手がかりの一つで、とりわけ日本の伝統的世界観を顕わしている「晴れの日」「褻の日」にみられる生活様式の変容のように現代に生きる私たちに限りない教訓を示唆する貴重な史料と云うこともできます。
また、寺社仏閣に奉納されている鰐口?梵鐘?石灯籠?経筒などの石碑や金属などに刻まれている銘文、願文、絵馬を始め、制札なども歴史事実を物語る重要な史料であり、古文書と云うことができます。
古文書の学習は、地域史研究、文化財保護活動の観点からみても私たちの興味と感心を覚醒させる存在感のある有用な研究素材です。特に地域の文化史理解を深める為には、古文書学の研究成果に負うところが大きいと考えます。近年、各々の地域において果敢に文化財の保存や調査が実施されています。地域史に親しみを覚えて、郷土資料館や博物館に足を運んだ折、他者の助力を得ずに、古文書解読の知力を備えていたならば、何と喜ばしいことでしょう。可能であるならば、現代に伝世する古文書の解読から地域史を主体的に自己とのかかわりから見ていく考察手法を身に付けてほしいものです。そこで、地域文化史等の理解に努め、独自の生活文化を具体的に把握する一助として、古文書史料が存在していることを再確認し、歴史意識を高めてほしいと思っています。
各々が古文書に興味と関心を持ち、「探訪と解読」を深化する中から文化財の保存、愛護、継承のための主体的活動が生まれてくるものと確信しています。
1995年(平成7年)年1月17日早暁に突如として発生した「兵庫県南部地震」、2011年(平成23年)3月11日に勃発した「東北地方太平洋沖地震」等を始めとする大規模な惨禍によって、人間の尊厳は踏みにじられ、数多の文化財、古文書が散逸する結果になったことは、残念でなりません。
参考文献:伊木壽一著『日本古文書学』雄山閣 / 樋口正則著『古文書判読演習』名著出版