Osaka University of Tourism’s
Web magazine”passport”
「passport(パスポート)」は、観光や外国語、国際ニュースなどをテーマに、
大阪観光大学がお届けするWEBマガジンです。
記事を書いているのは大阪観光大学の現役の教授や学生たち。
大学の情報はもちろん、観光業界や外国語に興味のある方にも楽しんでいただける記事を定期的に公開していきます。
脳が共鳴するコミュニケーション
誰かと一緒に活動するときに、動きやタイミングを合わせることを、「息をあわせる」といいます。また、その動きが協調している様子を「息ぴったり」と表現します。近年、心理学で活発な社会脳(social brain)の研究では、このような自己と他者との関わりから生まれる心の現象が、脳の中ではどのような活動に支えられているのかを解明していくことを目的としています。
会話や合奏といった共同作業をしている間、ハイパー?スキャニングという技法を用いて、複数の参加者の脳活動を同時に計測することができるようになりました。その結果、協力?共感のコミュニケーションを要する作業中には、参加者同士の脳が同期して活動することが見出されています。
例えば、ハミングで合唱している最中の脳活動を計測している研究[1]では、二人の参加者が対面やパーテーション越しで協調して合唱した場合、言語処理に関わる脳領域(左下前頭皮質)や、メロディーの産出に関わる領域(右下前頭皮質、右側頭皮質など)で同期活動が強まることが報告されています。興味深いことに、実際に同時に実験したペア同士を組み替えて、ランダムな組み合わせで分析した場合には、このような同期性は認められなかったそうです。つまり、協働的なコミュニケーションが存在している条件でのみ、脳の共鳴が起こると考えられるでしょう。
さて、6月23日、本学明浄ホールにて吹奏楽部のポップスコンサートが行われました。
私の研究室はホールの上階にあるため、昼休みや放課後には吹奏楽部員がホールやその周辺で練習する音が聞こえてきます。普段はパートごとに、断片的に聞き知っている音が、ひとつの曲に紡がれていく過程を体感できる本番の舞台は大変楽しく、刺激的です。
私の前の列に座っていた女の子は、ドラえもんの曲が始まったとたんに、ひざの上で両手を構え、「指ピアノ」を弾き始めました。ピアノの音は聴こえませんでしたが、彼女の指の動きはホールの演奏と息ぴったりに同期していました。ステージ上の吹奏楽部メンバーと、小さなお客様の脳(こころ)が共鳴する、とても素敵なコンサートでした。
[1]Osaka, N., Minamoto, T.,Yaoi,K., Azuma, M., Shimada Minamoto, Y., & Osaka, M. (2015). How Two Brains Make One Synchronized Mind in the Inferior Frontal Cortex: fNIRS-Based Hyperscanning During Cooperative Singing. Frontiers in Phychology, 6, 1811. (doi: 10.3389/fpsyg.2015.01811)